もはや日記とかそういう次元ではない

そう、それは日記という既存の枠組みに一切捕われることのない、余りにも宇宙的でユニバースな、それでいてユニバーサルでユニセックスでリバーシブルな、日々の出来事を綴る、例のあれ。日記。

facebookで「知り合いかも」に現れる奇麗なお姉さん問題

 

いま世の男性を最も悩ませている問題は、これではないかと思う。トランプ政権の動向、成宮寛貴の引退、キュレーションメディアの行く末、それらを遥かに凌ぐ、大問題だ 

 

我々男性は何気なくfacebookを開き、何の気無しにボケっとタイムラインを流し読みし、誰かの結婚報告と誰かの赤ちゃんの写真と誰かの退職エントリー、あとは意識の高いエントリーにニュースのシェアを眺め、そしてふと「知り合いかも」と書かれた枠の中を見て、彼女を発見する

 

 全く聞いたこともない苗字に全く聞いたこともない名前の、奇麗なお姉さん。間違い無くこちらを見つめている。共通の友達がそう、4人

 

 

申し訳ないが、「知り合いかどうか」など、苗字と名前を見れば2秒で分かる。聞いたこともない苗字で聞いたこともない名前。断じて知り合いではない。しかし、「知り合いかも♡」と書かれた亜空間の窓から、奇麗なお姉さんはこちらを見つめている。 

む、むむむ...?

 

 

 

 

...知り合いかも ...か

 

 

いや、確かにこの人と知り合いかもしれないな... あ、確かに何か聞いたことあるかも? ン?一回どっかで会ったことあるかな? ン? ん?

 

 

「知り合いであって欲しい」という強い欲望はいつしか男性の記憶を曖昧にし、そして男性は静かに奇麗なお姉さんの名前をクリックする。ほお... 共通の知り合いはこいつとこいつか... お?他にも写真があるじゃないの...  ほお... なるほど... ふむふむ...

 

 

一通り確認した結果、やはり冷静に考えてこの人とは人生で一度たりとも出会ったことが無いことを確信する。間違いない。この人は知らない人だ。たまたま共通の友達が数人いるだけだ。何を気持悪いことをしてるんだ自分は。男性は落ち着き、友達申請をせずにそっとfacebookを閉じる

 

 

 

明くる日、男性は何気なくfacebookを流し読みする。婚約の報告に転職エントリー、ブログ更新のお知らせに料理の写真、いつもと変わらぬ平和なタイムライン、その日常を粉砕し、「知り合いかも」と書かれた異次元のフィールドに、彼女を発見する。

 

 

全く聞いたこともない苗字に、全く聞いたことのない名前。ああ、この人はあれだ。昨日も「知り合いかも」に出てきた奇麗なお姉さんだ。知り合いじゃない人だ。

 

 

しかしお姉さんは今日もこちらを見つめている。「知り合いかも♡」と言いながら、否、「知り合いだよ♡♡」と叫びながらこちらをガン見している。むむむむっっむんむぬ? 男性はお姉さんの名前をクリックする。おお、そういえばこいつが共通の友達だったな。ははは。 お、こんな写真も。ほっほっほ

 

 

男性は冷静になる。違う。違うぞ。知り合いじゃない。昨日も確認したじゃないか。一度も会ったことはない。ないのだ。ないものは、ないのだ。

 

 

 

 

男性は、繰り返す。明くる日も、明くる日も男性はお姉さんに出会う。お姉さんはタイムラインの日常をブチやぶり、「知り合いじゃん♡♡♡」と書かれた窓から現れる

 

 

明くる日も、そして明くる日も。お姉さんはタイムラインの平和を滅ぼし、「私たち、知り合いじゃないの♡♡♡」と書かれた額縁の内側から出現する。男性は毎日お姉さんに出会う

 

 

そして60日が経つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男性は何気なくfacebookを開き、何の気無しにボケっとタイムラインを流し読みし、誰かの結婚報告と誰かの赤ちゃんの写真と誰かの退職エントリー、あとは意識の高いエントリーにニュースのシェアを眺め、そしてふと「知り合いかも」と書かれた枠の中見て、彼女を発見する

 

見たことのある苗字に、見たことのある名前の、奇麗なお姉さん。間違い無くこちらを見つめている。共通の友達がそう、4人

 

見慣れた名前をクリックして共通の友達やその他の情報を確認する。おお、知ってるわ。そうそう。ああ、この人、あれだ

 

 

 

 

 

 

 

 

知り合いだわ。

 

 

 

 

 

 

 

男性は友達申請を送り、メッセージを送る。

 

 

「こんにちは。先々月くらいに、お会いしましたよね?どこか忘れちゃったんですが。」

 

 

 

 

 

 

 

「それからと言うもの」

 

 

 

 

 

「僕たち」

 

 

 

 

 

「毎日会ってません?」

 

 

 

 

 

 

 

「一昨日も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして男性は無事、性犯罪者となったのである。