夜になると無性にラーメンが食べたくなる。夜がラーメンを呼んでいるのか、はたまたラーメンが夜を呼んでいるのか。その因果については全くの不明。
多少なりとも腹が出てきている現状を勘案すると、夜にラーメンはよくない。しかし、ラーメンが食べたいというその気持ちは、尋常ではない。
ラーメンが食べたい自分と、ラーメンを食べてはいけない自分。異なる2つの自分に挟まれ、自我のままならない日々が続いた。そんなある日、黒ウーロン茶に出会った。
黒ウーロン茶は、脂肪の吸収を抑える作用があるらしい。これを僕はこのように解釈した。「黒ウーロン茶を飲めば、大丈夫」
黒ウーロン茶さえ飲めば脂肪は吸収されない。つまり太ることはない。良かった。とうとう、抜本的なソリューションに出会った。ついに夜のラーメンも解禁だ。食べて良い。
もう何も心配する必要はないぞ。とにかく食って、とにかく黒ウーロン茶だ。黒ウーロン茶。黒ウーロン茶は全てを解決するのだ。
その日以来、夜はラーメンを食いまくり、黒ウーロン茶を一気飲みして寝るようになった。ラーメンのもたらす満腹感と、黒ウーロン茶のもたらす安心感に包まれて飛び込むベッドは、最高だ。
だが、幸せは長く続かない。数カ月が経ち、確実に以前よりも存在感を増した「腹」を見て、今、僕は黒ウーロン茶との関係を見直す必要があるのではないかと感じている
黒ウーロン茶が、期待に沿うような結果を残せていない。前評判ほどの実力がない。そんな気がしてならない。ラーメンを食って黒ウーロン茶を一気飲みしたが、太った。黒ウーロン茶はペテン師だったのだろうか
救世主と信じた黒ウーロンに裏切られ、今生の別れをも検討し闇に落ちた僕は、しかし、まだ黒ウーロン茶という万能薬を諦められずにいた。
いや、もしかすると、太ってしまったのは純粋に「黒ウーロン茶を飲む量が足りなかった」だけかもしれない。そうだ。ラーメン一杯につき黒ウーロン茶一本では、足りなかった、ただそれだけのこと。そうに違いない。
脂肪の吸収を抑えるべくもっと気合いを入れて、毎日、黒ウーロン茶を2リットル...いや7リットル飲めば大丈夫だった。その可能性はある。ちゃんと7リットル飲めば大丈夫だったのに僕がそれを怠った。7リットル飲めば大丈夫。大丈夫なんだ。
すがるような思いで黒ウーロンを信じるものの、どこか違和感が残る。冷静に考えて、ラーメンを食べた後に毎晩ウーロン茶を7リットル飲むやつの、どこが「大丈夫」なのだろうか。7リットル。黒とか黒じゃないとか、そういう問題ではない。
教えてくれ。7リットルという法外な量のウーロンを飲む活動の、どの辺が、大丈夫なのか。もう、その場合における、「大丈夫」とは、一体何なのか。その大丈夫という男性は、誰なのか。
いよいよそうなってくると、僕は黒ウーロン茶のみならず、「大丈夫」との関係も見直す必要があるだろう。今後、大丈夫とは一定の距離をとらざるをえない。これまでと同じように大丈夫と付き合っていくのは難しい。嗚呼。
ついに大丈夫すらも大丈夫ではなくなった世界で、それでも今日も夜が訪れ、そして今夜も例にもれず、無性にラーメンが食べたくなってきました。
夜がラーメンを呼んだのか、はたまた、ラーメンが夜を呼んだのか。