もはや日記とかそういう次元ではない

そう、それは日記という既存の枠組みに一切捕われることのない、余りにも宇宙的でユニバースな、それでいてユニバーサルでユニセックスでリバーシブルな、日々の出来事を綴る、例のあれ。日記。

「同姓の熊谷と申します、ランチして下さい」という怪しいメッセージが来たので迷わず快諾したところ、想像を遥かに超える怪しいオジさんが現れた。そして2人の熊谷は真実に向け手を取り合い、立ち上がったのだ

 

 

「はじめまして、わたくし同姓で熊谷といいます。ブログ拝見しました。ランチお願いします。」

 

 

 

この圧倒的に怪しいfacebookメッセージを見て、無論、二つ返事で快諾。

熊谷を名乗る怪しい男性との本日の会合の詳細を、以下に記す。

 

 

日付:2016年2月5日(金曜日)

時間:12:00-13:46

天気:晴れ

※ ノンフィクションです

※ 長文/駄文失礼致します

 

 

 

 

11:59

待ち合わせ場所である六本木のうどん屋に向かう途中、熊谷氏から電話が掛かってきた。店の前で立っているマスクをした男性です とのこと。到着すると一目で分かった。

40歳前後の切れ目の男性が立っている。2人は店内へと消えた。

  

12:07

男性はテンションが高いというわけでは無かった。僕のブログを、文字通り隅から隅まで読んでいる。「あの座薬の投与のナースとの会話なんだが..」 彼は、なぜ僕のブログが素晴らしいのかを、非常に論理的に、淡々と説明した。正直何を言ってるのかサッパリ分からなかったが、褒められているのでとても嬉しい。ただし僕の精神構造は

喜び:恐怖 = 2:8  のバランスとなっていた。

 

 

12:15

熊谷氏は店員を呼び、荒っぽく注文をした。

「カツ丼+うどん(3玉) 御願いします。」

  

どんだけ食うんだこのオッサンは

僕は渋々続いた

「それ2セットでお願いします」

 

 

12:47

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もう食えねぇ

3玉の内、2玉は残したであろう僕が箸を置くと、目の前に座っている熊谷氏は同様に箸を置き、ジッとこちらを見ていた

 

彼は、僕よりも多くの、大量のうどんを残していた。無論、カツ丼も残している

何だ、いったい何なんだこの人は

少なくとも、目が犯罪者だ 

 

 

 

12:54

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2人の男はうどん屋を出て、六本木交差点付近のカフェに移動する。とあるビルの7階、椅子に腰掛けコーヒーをすすりながら、熊谷氏は切り出した

 

 

「ところで本題に入りたい」

 

 

 

 

本題?

 

 

 

 

12:55

昼食の時間を終えようとするカフェには、我々以外に数人の客がいるのみだった。

静かな池に小石を投じるかのように唐突且つ慎重に、熊谷氏は1つの提案をした 

 

 

熊谷「株式会社熊谷という会社を立ち上げようと思っている」

 

熊谷「株式会社熊谷?」

 

熊谷「そう。株式会社熊谷だ。是非そこに、ジョインしてくれないだろうか?」

 

熊谷「何の会社ですか?」

 

熊谷「熊谷という人間を集める会社だ。社員は全員、熊谷姓で揃える。残念なことに、現状では、そこまでしか決まっていない。あとは色々、熊谷代表として君に決めて欲しい。どうかね」

 

熊谷「勿論です。是非やりましょう。」

 

 

 

12:57 

2人の熊谷は、それまでの白けたムードが嘘かのように熱く語り始めた

何故いま、このタイミングで、熊谷を集めた会社が必要なのか

 

 

熊谷「熊谷という苗字は、その苗字が本来持つべき真の実力に比して、世間では正当な評価がなされていない。そう思わないか熊谷君?」

 

熊谷「はい、間違いないですね。現状、高橋や斎藤と言った勢力に隠れ、3軍感が出てしまっていますが、そのポテンシャルや、あの山田にも勝るとも劣らないことは間違いないです。」

 

 

13:01

意気投合した2人の熊谷により、会社の定款や、最終的に目指すところは直ぐに決まった。

以下に、株式会社熊谷の企業理念を示す。

 

1:我々は、熊谷姓の繁栄の為、一切の犯罪行為を駆使し、ありとあらゆるその他の苗字を駆逐する。

 

2:我々は、「熊谷」を見て「クマガヤ」と読む熊谷童貞達を駆逐する。地名はクマガヤ、人名はクマガイであるということを骨の髄まで分からせしめ、分からず屋は徹底的に鈍器のような物で撲殺する。

 

3:我々は、KUMAGAIという単語を、インターナショナルスタンダードとも言えるレベルまで引き上げる。SUSHI、SAMURAI、KUMAGAI が日本の伝統であると言わせしめる。

 

4:我々は、日々、全ての熊谷の幸せを願い、熊谷が暮らし易い社会を創造する。

 

 

 

13:08

2人は直ぐに会社の詳細についての議論にとりかかった。

本社の所在地や短期的な戦略の他、競合他社の状況や人事戦略 話すべきことは山積みだった。

 

先ずは、早速だが、会社名は本当に株式会社熊谷 で良いのか が議題となった。

この会社名は、あまりにインパクトが弱くないだろうか?こんな単純な名前、チンパンジーでも思いつく

 

そこで議論の末、「熊谷合同会社」を会社名にすることとした。勿論この会社は株式会社である。

つまり我々の名刺には以下のような社名が刻まれることとなった

 

 

 

株式会社熊谷合同会社

 

 

 

 

すんごい

 

すんごく良い。すんんごい攻撃力だ

株式会社なのか合同会社なのかサッパリ分からず、取引際はオッタマゲルだろう。名刺交換の時点で会心の先制パンチを喰らわすことが出来る

 

我々はさらに議論を進め、この "企業名" という圧倒的なコアコンピタンスを確固たるものにするため、更に「株式会社熊谷」という名前の合同会社も同時に設立することにした

その合同会社の名刺に刻まれる社名は何と、

 

株式会社熊谷合同会社

 

 

 

スゴ過ぎる。差し出された二枚の名刺には、全く同じ社名が刻まれている。しかし紛れも無く違う会社。これはもう、打合せ開始1分で、取引先を圧殺したも同然だ。

 

 

これら2つの会社は互いに資本関係を持たず、独立した違う会社でありながら、全く同じ従業員・全く同じ事業・全く同じ所在地 で運営することに決定した

一体何の為に2社設立しているのかは当人達にもサッパリ分からないという、鬼の布陣だ

 

 

 

13:18

2人の熊谷は人材面の議論にうつる

まずは全国の人間たちから、出来るだけ多くの熊谷をリクルーティングしないといけない これが目下の課題だ

しかし、よくよく考えると、リクルーティング活動は決して難しく無い。

 

 

エントリーシートに、学歴や志望動機は一切無視して氏名のみ記載してもらい、

 

 

「熊谷」であれば採用

 

「熊谷」でなければ不採用

 

 

 

 

面接も何も必要ない

我々は胸を撫で下ろした。

 

 

 

13:21

熊谷という苗字は現状、やはり3rd tier止まりという認識を持っておく必要があるだろうと、目の前の熊谷氏は言う

木村や田中には全く叶わない。しかしそれでも、熊谷は恐らくまあ10万人はいるだろうと、目の前の熊谷氏は言う

そしてその内、少なく見積もっても、6割は弊社に入るだろうと目の前の熊谷氏は言う。よって、社員数は6万人になると目の前の熊谷氏は言う

2人の熊谷は電卓を叩きながら、満足気な表情を浮かべた

 

 

 

 

 

これほど完璧なフェルミ推定を、僕はまだ知らない

 

 

 

 

 

13:27

具体的な事業戦略を練らなければならない

熊谷を集めて、それで一体何をするのか

 

2人の男は 議論を進め、いくつか子会社を設立することにした。

 

 

1つは、「株式会社ボロ儲け」

この会社では、徹底的に犯罪を犯し、凄まじい悪徳商法で鬼のように収益を上げることにした。

 

 

2つめは、「株式会社確認の上で折り返します」

これは、グループ会社全体のクレーム対応を引き受ける会社だ。

株式会社ボロ儲けが引き起こすであろう数々の問題、それに対する社会的責任の追及を、この会社が一手に引き受け、先方に対して「確認の上で折り返します」を連発する

 

 

さらに、「株式会社確認の上で折り返します」自体に対するクレームを引き受ける為、「株式会社確認の上で折り返します」の子会社として、「株式会社ちょっと聞き取れませんでした」を設立することにした。

この会社では全てのクレームに対し、徹底して「ちょっと聞き取れませんでした」を繰り返す

 

そして逆に、ポジティブな提案が来てしまった場合にも、それを適当に受け流す為、「株式会社検討中」を設立。全てのアライアンス提案を検討中という名の闇に葬り去ることにした

 

さらにその子会社、「Pending & Co.」を設立し、全てのインターナショナルな提案もpendingという名の闇に葬り去ることにした

 

 

 

 

あまりに強固かつ盤石な体制。非の打ち所がない 

 

 

 

 

 

13:32

競合他社の状況を考えなくていはいけない

現時点では我が「株式会社熊谷合同会社」に匹敵する崇高な理念と洗練された戦略を持ち合わせた会社は存在しないが、

我々が市場を開拓し圧倒的な地位を確立し、東証一部に上場することで投資家の注目を集めた暁には、戦略を模倣した会社が乱立すると想定しておいた方が良い

 

 

株式会社遠藤、株式会社佐々木 等々、日本各地の民度の低いゴロツキが、我が社の戦略を踏襲し、激しい競争が起こることは創造に難くない

 

これに関しては、どのように戦えば良いか、熊谷氏にアドバイスを求めたところ、一言、

「徹底的にM&Aを仕掛けていけば良い」

 

 

 

な、なんだこの雑な戦略は。 こ、こんなに雑な感じで良いのか? M&Aってのはそんなに簡単なのか

素晴らしい 素晴らしいじゃないか

 

 

「想像してみろ、株式会社伊藤や、株式会社江藤が、株式会社熊谷合同会社の子会社となる。その時、本当に優れた苗字が何だったか愚民共は思い知ることになるのだ」 

 

「はい」

 

「あらゆる会社は、株式会社熊谷合同会社の支配下だ。」

 

「心が震えますね、マスター。株式会社溝口くらいのショボい勢力となってくれば、そんなものは孫会社くらいのポジションが相応しい。株式会社水野の子会社として、株式会社溝口。そして株式会社溝口の子会社として株式会社勅使河原といった塩梅です。完全なヒエラルキー、誰がどう見ても、苗字の実力が一目瞭然だ」

 

  

2人の熊谷は、熊谷の熊谷による熊谷の為の搾取を喜び、大声でハイタッチをした

 

 

 

「これで全ての愚民共は、最強・熊谷姓の前にひれ伏すことになる!!!ヒィッィィッやああアッッホーイ!!!!!!!」

 

 

「熊谷という苗字の女性と結婚する男は、すべからく ”婿入り” する必要があるという法案が可決されるのも時間の問題ですなぁぁxああああーーーー!!ぶうゥぅぅ〜っふぁふぁふぁふぁふぁふfうぇあじゃえfうぃじぁ!!!!!」

 

 

 

この叫び声を聞いて、

 

ウェイター含む喫茶店内の全ての人間が、我々のことを ”新手の宗教団体” だと認識したことは間違いないだろう

 

 

 

 

13:46

会計を済ませ、2人は店を出た

 

昼下がりの六本木の交差点、平日だというのに人通りは多かった

先ほど出会ったばかりとは思えない2人の漢は互いを同士と認識し、抱き合い、勝利を誓い、そして名残惜しそうに別れた

 

 

交差点へと歩いて行く熊谷氏を見届け、そして僕は目を閉じ宇宙に想いを馳せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この先の人生で、もう一度彼に会うことが、あるんだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行き交う人々の群れに目をやり、雑音に耳を澄ませた 

 

 

 

 

 

 

以上