父と母と妹とワタクシ、家族4人でのシンガポール旅行です。家族揃っての旅行なんて、一体何年ぶりだろう。。妹の受験祝い(1年遅れ)、及び父の勤続何十周年祝いだか何だかで、あの有名なマリーナベイサンズに泊まろう、そうしよう、どうにか泊まろう!と家族一丸となって躍起になって出かけて参りました
我々としては正直、「マリーナベイサンズに泊まった」という実績さえつくれれば良いので、マリーナベイサンズに泊まるのは1泊のみ
他の日程はショボいホテルで済ませ、そして当然のようにマリーナベイサンズの中では最も安い部屋を探し出し、格安の値段で予約し、どうにか泊まれる算段をたてました。予約が完了した段階で家族一同、歓喜の声をあげました
しかし、どうせ平日に泊まるのだし、もしも良いグレードの部屋が丁度良く空いていれば同じ値段でシレっと良い部屋に案内しては貰えないものだろうか。。 という祈りにも近い願いを込め、母と妹は出発前、ダメもとでホテルに拙い英文メールを送付
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予約させて頂いている熊谷です。
主人の勤続25週年と娘の大学合格のお祝いの旅行です。
部屋は出来れば、コネクティングルームでお願いします。ツインルームが良いです
以前から泊まりたかったので、非常に楽しみにしてます。
どうぞ宜しくお願いします。。
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当日マリーナベイサンズにつくと、その圧倒的な高さと外観に圧倒され、おおお.. とウナり声をあげる家族一同
僕は以前中に入ったことはあるものの、泊まったことは無く、胸が躍ります
ホテルの上に船が乗っている、近未来的な着想がウリの斬新なホテル
フロントでチェックインを済ませると、「良い部屋がたまたま空いていました」とサラっと告げられ、51階のルームキーを手渡され
え、、51階? たしか55階くらいまでしかなかったと思うから、物凄く上の方だ。。きた!!やっったー!超ラッキーだ! とハイタッチする熊谷家
通常のエレベーターとは違う入り口へ案内され、51階以上専用のエレベーターで上にあがり
部屋の前に到着..
中へ...
そこは..
推定330平米の...
超絶スウィートルーム...
複数の寝室、複数の風呂、複数のトイレ、ピアノが完備され、筋トレルーム、書斎、そしてカラオケルーム...
机の上にはウェルカムイチゴチョコレート...
慌ててこの部屋の宿泊料を確認すると、平日一泊、68万円/部屋
い、一体何が起こったんだ。。何分の一の金額で泊まれたんダ... やった、、ついにやったYO.. 勝ったYO...
悲鳴をあげる母と妹、あぜんとする私
しかし、涙を流し歓喜の声をあげ大喜びするのもつかの間、泊まったこともないスゥートルームの正しい過ごし方が分からず、皆どことなくソワソワしてきました
4人集まって1つの机の周りに座ってみると、なんか空間の無駄遣いをしているようで「なんか勿体ない」という感情に襲われ、
だからと言って4隅に散り散りになって会話するには相当な声量が必要、というかその散り散りの布陣は幾らなんでも不自然
一体全体、今、何をするのが正解なんだ
一同はあたふたし始め、自分を見失い始めます
僕はまず高所が怖いので極力窓には近づかないようにし、キレイ過ぎる場所が苦手なので寝室等には近づかないようにし、操作が分からないので筋トレルームやカラオケルームには近づかないようにし、チョコレートが嫌いなので近づかないようにし、そして自分が存在するべき場所が、室内のどこにもないことを認識
トイレの中でうずくまり、ウウ ウウとうなり声をあげ頭を抱えます
母は、ああでもないこうでもないとウロウロし、ああついに来てしまった、ああ人生に一度泊まれるかどうかだ、ああついに来てしまった と連呼しながら気が狂ったようにあらゆる部屋の写真を撮りまくります
いや、勿論、数枚の写真を撮る分には分かりますが、僕が確認した限りその撮影枚数は優に500枚以上
クローゼットの一角の謎の部分をパシャリパシャリと入念に写真におさめるその様はもう、ホテルに喜ぶ一端の主婦の域を遥かに超え、証拠写真を収集する県警本部の方なんじゃないのか疑うレベルで、非常に怖い。取り憑かれているとしか思えない
そしてパニックに陥った妹はフラフラと室内を歩き回り、オオ オオとうなり声をあげながら至る所に置いてあるアメニティの全てを持って帰ろうと試みます。
「これ持ってっていいやつかな?」「これ貰って良いよね?」「これは貰っていいやつだよね?」「これ凄くない?」
「あれ?こっちにもあるかな?」
「あった」
「うおおお〜!! いっぱいあるよオオオオオおお!!!!」
窃盗犯です
我を忘れた3人は奇怪な行動を繰り返し、
自分を見失い、この、この部屋を有効活用する為には何か凄まじい何か、何かをしないといけないという強迫観念に取り付かれ、ジッとしていると元が取れないという謎の考えに押しつぶされ、気は動転し
夜ご飯はもういっそコンビニで買ってきて、ここで食べた方が良い、いや外に出た方がいい、夜寝るの勿体無い、いや徹夜なんかして体長悪くなったらもっと勿体ないだろ そもそも今から何をするのが正解なの? ってかこれ本当に追加のお金とられないの? 大丈夫だろ、いや確認しろ。 カラオケの使い方が分からない、カラオケなんかしたら時間勿体ない日本でも出来るじゃん うるせえよハゲ、なんだよゴラ、やんのかオラ? うぉおおあら おいれjわえおじぇあw@p、 えw@」あfれ@:pw、 :えこpふぁえk、、
楽しかった筈の旅行は世紀末の様相を呈し、
やっぱりこんな部屋泊まるんじゃなかった逆効果だ豚に真珠だ と本末転倒なことを言い始め全てが崩壊する その一歩手前
しかしただ一人、親父だけは、いつになく落ち着き払っていました
彼は3人をなだめると、異常に広いリビングに臆することなくゆっくりと服を脱ぎ、
伸びをしてから
優雅に髪をセット
その後、窓際の椅子に座り深く腰掛け、落ち着いた口調で語ります
「しかし人間には、自由意志などない」
その後突如として窓に向かって奇声を発し、大都会の喧騒を威嚇
「そそs:あおえfぽえ:あkぺか;ふぃえっっじい!!!!!!」
ピアノを、引き始めた
突如として部屋に響き渡った狂気のメロディー
皆、フフフと笑い始め、少しずつ我に返り落ち着きを取り戻し
やがて平穏が訪れ、
一家に笑顔が戻ってきました
母「やだあなた、服着てよ〜♡」
父「まだ着ないよ〜♡」
熊谷家は手を取り合い、小さなテーブルに身を寄せ、そして景色を見てからハハハと皆で笑いました。よし今夜は飲もう、長い夜になりそうだ
コンビニで買って来たビールで乾杯し部屋にこだまする笑い声は止む事なく、そして熊谷家は、最高の夜を過ごしました
あの時親父が全裸にならなかったら、うちの家は終わっていたかもしれない
いぶし銀なイチモツに、親父の偉大さを垣間見た気がした
翌日目が覚めると父の姿はなく、
彼は屋上のプールで一人、ボーッと朝日を眺めていました
途方もない彼方に想いを馳せ、彼は一体何を考えていたのか
昔は170cmあったと嘘をつく166cmの親父の背中が、やけに大きく見えた
おしまい。